あらすじ
「そなたは、私のお庭番だ。誇りを持ってその名を記せ」
父は生まれたときから無く、母ももういない。奉公している植木商の店の中では一番下で、学も十分にはない。そんな自分を先生は信頼してくれた。頼ってくれた。大切な草木を任せてくれた。先生の、お庭番だと言ってくれた。
文政の世、医学や生物学を教えに日本にやってきたシーボルトの館で15歳の熊吉は庭の草木や薬草園の世話を任されることになった。誰もが恐れて行きたがらなかった異人のもとでの仕事だったが、熊吉はこの機会をずっと心の中で望んでおり、日本の美しい自然を故郷にも広げたいという先生の願いのため、4年間一生懸命に仕えた。
やがて先生が故郷へ帰国する日がやってきた。
先生が日本に、妻に子供に、生徒に、熊吉に残してくれたもの。与えてくれたもの。
ドイツ人の「先生」と日本人たちの、人生の中でほんのすこしの時間のものがたり。
感想(ネタばれあり)
シーボルトが日本にもたらしたものはそれはそれはすごいけど、学者でもない武家でもない神童でもない、10代の若者である熊吉(コマキ)が世界に広げたものの大きさに感動した。
自分の名など…と思っていた熊吉に標本作りを任せ、名を残させた、それこそがシーボルトの素晴らしさであり業績だと思う。
コマキは植物が特別好きだったわけではないと思う。生きるためにその道に入り、生きるために目の前のことに一生懸命向き合った結果であったわけで。熊吉はコレとは違うが、やりたいことが分からないときにとりあえず目の前にあるものに一生懸命取り組みなさいという先人たちの教えはそういうことだよなあと思ったりした。まあそんなハングリーさと現代はどうあっても比較できないが。
シーボルトに関してはわたしはお滝や以祢たちのその後のほうが気になるので朝井先生にそこも描いてほしい…!
そもそもわたし、朝井まかてせんせいの本初めて読んだのだわ。朝井せんせいの存在はもちろん存じ上げており、図書館で幾度も手に取りかけたんだけど、なんていうか、生意気極まりないんだけど、そしてめちゃくちゃ偏見なんだけど「変わったペンネームをつける作家」に拒否反応があって、そして時代小説が好きだからこそあんまりいろいろな作家さんに手出しづらいなと思ってしまっていて…今回はあんまり深く考えずふと目に止まって借りてきて読んだら、めちゃ好みの作家さんだったので猛省いたしました。これからすごい読むと思う(笑)
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