あらすじ
いのちを守るためにいのちを断つ。
昭和11年。小樽に住む女性が体の不調を訴え、手術により発見されたのは蜂の巣状の嚢胞。病名はエキノコックス症。寄生虫によるこの感染症を発症した女性の出身地は、海に浮かぶ小さな島、礼文島であった。
それから18年後の昭和29年、若き研究者・土橋義明は原因究明と対策のため島に派遣された。設備も整わない、島民の意識も揃わない。途方もない数のいきものたち。土橋は毎日のようにネズミや野犬を調べるが、感染の症状は一向に見つからない。しかし必ずここに人の命を脅かす存在が生存している。
そして本土から応援に来た研究者たちが下した決断は、この島にいる全ての終宿主の処分。
いのちのために、いのちを捨てるのか。研究者と島民の葛藤と努力を描いた作品。
感想(ネタばれなし!)
関東で生まれ関東で育ったわたしには、キツネにいるので触っちゃだめよ位の知識であったエキノコックス。昔ならいざ知らず、いまの時代ではそんなやばい感染症じゃないっしょくらいにおもってたのだが、まさかいまだに感染者が報告されているとは…。そしてわたしのようにキツネに触んなきゃいいんでしょ?くらいの危機感の薄さの現代人、いっぱいいると思う。しかし実際はキツネに触らなくても菌はどこにでもいるわけで。そんな危機感の薄さを案じて研究者のかたがもっと世に知られてほしいと依頼されて書かれたのだそう。
こういうの、ほんと大事だと思う。
河﨑秋子さんは大変好きな作家さんのひとり。彼女の作品のテーマがとても好き。北海道も好き。
今作を読んで、人間という存在はどれだけのものなんだろうと考えた。いきものの中で、我々人間はほかのいきものを淘汰できる立場にあるのか…?地球に生きるすべてのいきものは共存共栄、平等に生きるべきではないのか…?(すぐスケール大きく考えがち)
動物実験しかり、いろんなものの犠牲のうえでわたしたちはいま生きている。そう思うと、自分もまた犠牲…というか、自分の失敗も後悔も含め、良い未来への踏み台にしてほしいと思う。なにができるかわからんが。
ちょっとだけ肉魚食べる気が起きなくて、これ読んでる間はひたすらに植物性食品を摂取してた……。タイトルが結構エグいなと思う。読んだ後このタイトルの意味を考え、手を合わせずにはいられなかった。
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