あらすじ
時は大正から昭和にかけて、侠盗目細の安吉一家はその名を轟かせた。義理と人情を信条に、弱きを助け強きを挫く。親分目細の安吉、説教虎こと小頭の虎弥、ゲンノマエおこん、黄不動の英治、百面相の書生常、そして末にのちの天切り松こと松蔵。松蔵が日ごと闇がたりで語るものがたりは決して嘘や幻想ではなく、その体で見て触れ聴こえ、そして心で感じたすべては本当のはなし。時代を築き命をかけて生きてきた人間のものがたりは、今日も聴く者のの心を震えさせる。
感想(ネタばれなし)
その昔2巻までは読んだけどそのままになっており、再び手にし止まらなくなり一気に5巻まで読み切った…。はじめこそ現代の松蔵の説教くささに少しイラっとしたのだが、どんどんとこのおじいちゃんの愛らしさにハマっていく。
この作品の面白さはなんといっても実在した人物が出来事が多々出てくること。永井荷風、山形有朋、森鴎外、竹久夢二、愛新覚羅溥傑、犬養毅、チャップリンなどなど…教科書でしか知らないあの人やこの人が、松蔵たちとしゃべっているんだもの。まるで、ただ教科書には載っていないだけで松蔵たちも松蔵たちのやったこともすべて史実に残っているんじゃないの?と思ってしまう。3巻目でやっと知ったんだけどそもそもが安吉の親、仕立ての銀次がそもそも実在の人物だっていうんだから絶対安吉一家もきっと生きていたと信じたい!あまりにも自然に実在のひとが出てくるから、もしやこの人も?って毎回調べるようになっちゃったよ。
松蔵の説教くささにいらっとしたと書いたが、なんか悪いことしてるやつらのために話してんのに悪いことしてない私自身も説教されているような感じがしちゃって、しかも収監されているひとや警察みんなどんどん素直になっちゃうからえらすぎるだろ!もともとみんないい子か!っていうつっこみをね、してましたよ。3巻くらいからはもう全く思わなくなったけど。おはなし聞かせて聞かせてーって子供みたいで聞くひとすらこっちが愛おしくなっちゃうから松蔵おじいちゃんすごい。
大正は良いのだけどそのあとの昭和になってくると、避けて通れないのが戦争。虎弥の可愛がっていた男の子も成人し赤紙をもらってしまう。当たり前だが登場人物も歳をとる。老い始めた安吉や虎を見ていると、自分の親の老化に目をそむけたくなってしまう、そんな切ない感情に襲われた。本当に、何億回でも言うけど戦争はダメです…。どんな理由も正当化などできないんだよ。
どの登場人物も大好きなんだけど、わたしは安吉親分がいちばん好き。はーめちゃくちゃかっこいい。(なので余計に安吉の老いは切なかった…)このカッコよさは唯一無二。そして愛情の深さもなかなか他にいないでしょう…。誰かに心から愛されたことと、心から信じていた人に裏切られたこと、この両方の経験を持つものはとても強いと思う。天切松に出てくる人物のほとんどがこの経験をしているから強く優しく生きられていると思う。
松蔵おじいちゃんは、自分が一家を持たなかった代わりに、その愛情をこうやって与えようとしているんだろうなと。人を殺した人間も、騙した人間も、生まれたときは柔らかい愛しい赤子。悪い話も良い話も聞かせて、罪は許されないかもしれないが、せめて残りの生を、いろんなことを考えて生きていって欲しいという願いが込められているんじゃないかって思いました。
さすがに5巻分感想長くなったので2回に分けます!次回特にすきなお話編です。
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