あらすじ
大切な人の命が奪われたのはすべて自分のせい。おちかは己が背負った罪を忘れず抱えて生きていこうと、江戸は神田にある叔父夫婦のもとに身を寄せた。人と関わることを止め心を閉ざしてしまった姪を心配していた叔父の伊兵衛は、ある日自分の代わりにお客様の話を聞くようおちかにいいつける。これを皮切りに「聞いて聞き捨て、語って語り捨て」とし、身も凍るような恐ろしい話から心を溶かすようなあたたかい話、世の教訓とすべき話などたくさんの話を聞く役目を担う。
いろんなひと、いろんな話に触れ、三島屋に来た当時よりだいぶ人との関わりを恐れなくなったおちか。それでも同じ世代の女性が望むものは自分は望んではいけないと強く思う。そんなとき、懇意の貸本屋瓢箪古堂の若旦那、勘一から寿命に関わる不思議な話を聞いたおちかは、ついに閉ざしていた心から飛び出す決心をする。
おちかが務めた三島屋百物語、第一章の完結編。
感想(ネタばれあり)
おちかが嫁に行ってしまったーーーおめでとう嬉しいでもさみしい!もう黒白の間でいっしょうけんめい客の話を聞くおちかも、お菓子や掛け軸や花を用意するおちかも、ちょっと怖くなったり寂しくなってお勝さんに頼るおちかも、もう見れないんだ…さみしい。
ちょっと先回りして勘一が未来の旦那だって知ってたから、勘一登場の際はこいつ?冴えないなと大変いじわるな小姑感情を抱えて読んでたんだけど、いつも淡々としているこいつ(こいつ…)がおちかの可愛さにメロメロになるのも良いな。早く結婚したあとの姿が見たい、と今は思っている。何よりも三島屋のみんなの喜ぶシーンが、非常にこころに来た。ああ幸せだね、みんなが幸せになる結婚ていいね。寂しいけれど、おちかの子供がやがて生まれて、三島屋にもきっとお嫁さんがやってきて、たくさんまた新しい縁がつながれていくね。
さて、今回の中で特に心に残ったのがおちかの逆プロポーズ、ではなく「開けずの間」。願い事の代わりに人の命や理性や感情を奪ってしまう恐ろしい神様のせいで、一家のほとんどが命を落とす恐ろしいはなし。それは家族の命ですら例外ではない。
どんな願い事も叶えてくれる存在がすぐそばにあったら、手を出さずにはいられるだろうか?自分の願いを叶えるためならだれかの命や人生を奪ってもいいと、思ってしまわないだろうか?
きっとわたしの前にそんな神様が現れたら、手をとってしまう。
だから神様、決してわたしの前には現れないでください。どうか。
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